5deer

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作・演出 山田裕幸

#2023年12月9日〜11日 / 全5回公演

#白子ノ劇場

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数式という”言葉”で語る、確かに“ある”ということの証明。
未来が希望にあふれていた1970年代、ある大学の会議室で5人の数学者たちによる今年度の入試問題の検討会が始まった。お互いが作成した入試問題について議論する会話劇。3sheep、4fishに続くシリーズ第3弾。

 車を走らせていると、床屋で誰かが髪を切っているのが見える。ふと、これがどこかの旅先の風景だったら、まったく受ける印象が違うだろうなと思う。それはもう明日にはここにいないという前提に立つからだろう。人間というのは、常に我が身をその時々の風景の中に無意識になじませて生きている。同じ風景も特別な時間の中ではかけがえのないものに映る。

 この白子ノ劇場は2018年2月にスタートした。作品の稽古より客席の補強に忙しかったのをよく覚えている。上演中にブレーカーが落ちないかが一番の心配だった。そのうちに当たり前の風景になっていった。コロナのときも僕らの活動を見守ってくれた。たくさんの作品ができた。そして突然退去を命じられた。僕らの演劇活動が、いかに白子ノ劇場と強く結びついていたかがよくわかった。まったく人生には何があるのかわからない。しかし同時に演劇とはそういうものだとも言える。演劇は旅することだ。知らない土地、知らない人に出会ってこその演劇だとも思う。もう明日はここにいないかもしれないと思うその身体性の中にこそ、演劇の可能性は広がっている。

 最後に何を上演するか、私なりにいろいろ考えた。私は演劇活動の他に、数学を受験生に教える仕事も長い。日々の糧を得るということでもあるが、数学にはある種の確かさがある。しかも紙と鉛筆があれば、必要なのはあとは、人間の頭脳だけ、というところにも惹かれる。演劇の現場でフィクションの世界に身を置く自分と、数学の問題を考える自分、そのどちらも私という人間には大切なことだから、どちらも続けている。

 数学という題材は初めからなんだか正しさが担保されている感じがする。しかし劇中にセリフとしても出てくるが、進む先に解があるとわかっているならよいが、解があるかないかわからないというのは大変につらい。これが受験生と研究者の違いだ。私たちの活動の先には何があるのだろうか。すくなくとも私はあると思っているだから先に進めるのだと思う。私たちの置かれている今をこの劇にこめたつもりだ。

 約6年の間、地元商店街の方はもちろん、多くの方の協力があってここまでやってこれた。次の拠点も、同じ商店街の中に構えられそうで一安心しているところだ。さて、そこではどんなことができるだろう、そして何年続けることができるだろう。いつかいつかと思っているうちに、できなかった、などと後悔しないように、思いついたらすぐにやる、少しぐらいのリスクは取る、楽しくやる。引き続き、私たちのことを気にかけてもらえたら嬉しく思います。今回は、いつもの倍、書きました。最後だし。
 では白子ノ劇場最後の新作、お楽しみください。
(文 当日パンフレットより/山田裕幸)

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Media

Movie

Cast

君島 助教授(解析学)・・・・・古市裕貴
飯村 教授(代数学・整数論)・・西山仁実
中野 教授(代数幾何学)・・ナギケイスケ
佐藤 講師(数論幾何学)・・・・古澤光徳
森田 助手(代数学・整数論)・・・山田愛