雨の一瞬前

雨の一瞬前

作・演出 山田裕幸

#2007年10月11日~14日

#池袋シアターグリーンBOX in BOX THEATER

平成19年度文化庁芸術創造活動重点支援事業/東京都芸術文化発信事業助成

ダイジェスト動画

銀光りする熾烈な運命よ、
わたしたちの慈愛も罪も/おれたちの恨みも希望も、
有無を言わさずないがしろにしてしまうつもりか。

作品を発想する過程で、劇団のメンバーというのは(恥ずかしげもなく言うのだけれど)かけがいのない存在である。なにもそれは私だけのことではなく、同じ立場にある人であれば例外なくそう思うだろうし、もし思えないのなら、それは何かの終わりを意味すると思う。そのことは揺るぎない事実なわけだけど、やはり長い間一緒にいると「慣れ」が生まれる。もちろんそのすべてを否定する気はない。人間同士だ。いつまでたっても慣れないというのも、それはそれでどうかと思うし、そういう人間どうしだからこそ、到達できる領域があるのも事実だろう。

今回、韓国からチョソンヒ君を呼んだ。彼は日本語ができないから、伝えたいことや、わからないことがあれば、演出家はもちろん共演者にも、しつこいぐらい疑問をぶつける。最初はメンバーも戸惑い気味で、特に俳優同士がお互いの演技に対して批評をするのは、なかなか難しいものがあるようだった。しかし稽古を積み重ねるうちに気付いたことがある。それはソンヒくんは、誰よりも「自分のことを理解してもらいたい」と思っているのだということだ。どんなに優秀な通訳がいたとしても、異なる国の人が、そのすべてを肌で理解するのは難しい。だからこそ、もっと自分のことを理解してもらいたいと思うし、できることなら、あなたのことも理解したいと思うはずだ、きっと。「慣れ」と呼んで、ときに批判してきた私たちの関係は、演劇という表現に関わるものの姿勢として、「慣れ」と一言で片付けるには、あまりに安易なものだった。

今回もいろいろな方の協力があって、この作品を皆様に届けることができました。お客様にはもちろん感謝していますし、それと同じくらい、この作品に関わった人たちにも感謝したいと思います。どうぞ最後までごゆっくりご覧ください。 
(文 当日パンフレットより/山田裕幸)

解 説

ユニークポイントの新作『雨の一瞬前』は、終戦間近の東京を舞台に繰り広げられる、ユニークポイント初の歴史劇です。
2005年、ユニークポイントの韓国公演で出会った、清洲(チョンジュ)市民劇場より、俳優チョソンヒを招き、日本語と韓国語が舞台上で行き交う作品です。韓国の若手俳優の演技も、本公演のみどころのひとつです。(日本語字幕付き)
ユニークポイントはこれからも、海外の俳優とのコラボレーションを通じ、身体性の違いから世界を描く作業を行っていきたいと考えております。今回の公演がその第一歩となります。

舞台設定は、1945年3月。東京大空襲のほんの少し前、とある旅館での出来事を描きます。朝鮮半島から徴用された朝鮮人と、旅館の娘を軸に、上野駅で足止めを余儀なくされた人々や、近所に住むあやしい傷痍軍人などが主な登場人物です。
「戦争」や「日本と朝鮮の問題」など、本作のテーマは深刻かつ複雑ですが、演劇はそのような問題を、あたかも自分の物語として提示できる力があると思っております。演劇は歴史の解説でも、作者の主張の発表の場ともなってはいけません。あくまで、個に宿る物語として私たちは創作をしています。

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山田裕幸インタビュー

 演出助手宍戸が、山田にインタビューをしました。

今回は韓国人俳優を招いての公演となりますが、どういった経緯があったのでしょうか?
2005年、韓国に公演に行ったときソンヒ達と出会って、それがきっかけですね。いつか韓国人俳優と芝居をやってみたいとずっと思って。
それはなぜでしょう?
やっぱり、映画とか観ていても、韓国の俳優って格好いいじゃないですか。なんというか、身体に歴史があるっていうか、主張があるっていうか。
実際に稽古をしてみて、どうですか?
うん、やっぱりまず身体が違うよね。それが見ていて面白い。なんでかなあ、魅力があるんだよ。それはもちろん個人の身体能力という意味じゃなくって、やっぱり日本と韓国という環境の違いだと思う。日本人の身体とは違う。

 あとは、すべて言葉で伝えなくてはいけないという事かな。なんとなくだけでは伝わらないから、演出家にとっても俳優にとっても、思っていることを全て言葉にして説明していかなければいけない、っていうごくごく自然な事を改めて再認識するよね。しかも難しい言葉ではなく、簡単な言葉になるべくしなくちゃいけない。これは演出家にとっても、相当鍛えられるなぁと。相手にどうやって伝えるかを考える、そこが面白いなと思う。
脚本は戦時中という設定ですが、何故この時代を選んだのですか?
今回韓国人の俳優を招くのでどういうのがいいかと考えていて、それでやっぱり、日本人と、そうじゃない人が一緒に舞台にいるってどういうことだろうって。その後ですね、この時代を選んだっていうのは。大きな嘘ついた方が面白しろいし、スケールも大きくしたかったから。

 あとは自分の手の内が分かりつつあるというか、自分が何が得意で何が不得意か分かるところがあって。「これだったら出来るな」と言うことを繰る返さない為にはどうしたらいいのかね。演出家というよりは作家としての挑戦ですね。
歴史を描くのは難しい事かと思いますが?
難しいのは確かですね。ただ、一つ言えるのは最終的に人間を描いているわけだから、当時の人々も悲しみ苦しみは覚えていただろう、というのが信用に足るところで。これが人間じゃないものを描いていたら別ですけど。演劇は人間を描く芸術ですから。そこは信じていますよね。現代を描くとあんまり嘘もつけないですが、こういう物語っていうのはある程度嘘がつけるというか。もちろん、資料にはあたってるし、まったく嘘ではないけど、想像するしかない部分ってやっぱりあって、それが面白いなと思います。まあ、間違いはあると思いますが、ただ近づく努力は最後までします。

 あとは今「演劇の言葉」についてを考えていて、今、興味があるのは、普段の「日常会話」からどうやって離れていくかっていうこと。日常では使わない口調、演劇の言葉を使うのは凄く面白いですね。
今回の作品について
僕がいい話が好きじゃないので、どうしても何処へもいかないというか、答えを出すのは出来るけど、答えを出すのは嘘っぽいと思うからね、やっぱりこんな感じになるよね。でも、言葉に出来ないから、演劇にしているわけでしょう?よく考えると。だから、リアルなんだと思うんですね、こういうことを。
今までのユニークポイントの作品がそういう感じですよね。
だからラストシーンは別の人に書いてもらっても良いかなって、全然違うんじゃないかなあ。その方が、実はお客さん喜ぶかもしれない(笑)。でもね、別にラストシーンが重要じゃないんですよ。ただ最低限、演劇的なカタルシスみたいなものは、必要だと思うし、まあそれは最低限考えてますけど。丸く収まるのは、あんまり好きじゃないからね。

Media

Cast / Staff

関根光子(大成館の女)・・・洪明花
関根澄子(光子の妹)・・・衣川真生
朴守相・・・安木一之
鄭龍山・・・チョソンヒ(韓国/清洲市民劇団)
渡辺文子(女学校教師/光子の幼馴染み)・・・高田愛子
佐竹(陸軍軍医)・・・山路誠
片倉(傷痍軍人)・・・東誠司
初枝(片倉の妻)・・・大野由美子
滝親方・・・北澤輝樹
前田(特高警察の刑事)・・・中村匡克

照明 福田恒子
音響 三木大樹
舞台美術 福田暢秀(F.A.T STUDIO)
衣裳 兼松光
舞台監督 鳴海康平
宣伝美術 西村竜也
宣伝コピー 千葉広樹
制作 河野悟 中村紗夢
稽古場通訳 チェハノル
台本翻訳 洪明花
演出助手 宍戸かなえ・古海裕子
協力 清洲市民劇団 atelier SENTIO
字幕協力 青年団
字幕操作 古海裕子
主催 ユニークポイント
助成 文化庁・東京都